2010/6/25(金)13:00開演 於:帝国劇場
※公演はもう終了しています。
公式HP(7/30まで)
http://www.tohostage.com/candide/index.html
随分と時間が経ってしまいましたが、感想文です。
感想を書きたいと思いながらも、この芝居に登場するいくつかのキーワードに関して自分があまりにも無知なため、書いちゃ消しを繰り返し、結局素直に自分が感じたことだけを書きました。
学ばなければいけないことが、たくさんあるんだなあ、世の中には。
知識がなければ語れない、いつも思っていることですが、今回特にそれを痛感しました…
当初まったく観る気のなかった「キャンディード」ですが、新聞の劇評に‘哲学’という言葉を見つけて、単純に面白そうだなと思い、観る気になりました。
そして観劇。想像以上に過酷な内容に、見ていて少し凍りつきましたが、観た後すぐにパンフレットを読み、様々なことに思いを巡らせました。想像もしていませんでしたが、気持ちが後を引く作品となりました。
その名にラテン語で「真っ白な」「純粋な」の意味を持つ主人公キャンディードの旅の物語。真っ白な彼は家庭教師から教わった「楽天主義」「最善説」を鵜呑みにして育ち、そしてそこから放り出されて、世界を転々としながら、こんなことが「最善説」によって起こっている‘現実’なのかという光景をこれでもかと見せられる。
人間たちの黒い業。宗教対立、その裏側の実態、戦争、殺し合い、犠牲になる女性たち・・・キャンディード自らも酷い目に会い、恋人も悲惨な運命を辿ります。戦争が当たり前な世界では暴力も当たり前。権力の下では酷い目に遭わされるのも当たり前。あまりにグロテスクな光景の数々を、平凡に暮らす人々が犠牲となり当然のように潰されていく様を、嘆きや怒りをも忘れ、ただ呆然と途方に暮れる思いで眺めていました。
壮絶な話です。自分がこの時代のヨーロッパに生まれていたら。大きく抗えないものに押しつぶされることを想像すると堪らない。押しつぶされた果てに、もし命があったとしても、私は自分を再生できるであろうか。
以前から私には一個の妄想があります。私はスプラッターものが大嫌いで、よくあんなものを平気で作ったり見たりできるなあと思っているのですが。
凄惨な場面。こういうのに行き当たると、私はこれを必要以上にリアルに想像して気分が悪くなってしまいます。子供の頃からです。もしかしたら、もし前世というものがあるとしたら(前世についてはどうしても100%信じることができないのですが)、「キャンディード」のような時代に実は自分が生きていて、凄惨な場面を実際何度も見てきたのではないか、そんな妄想が、以前からあるのです。次に生まれて来る時は平和な場所が良いと願って死に、現世この平和な日本にいるのかな、と。
私は、もしかしたら弱い人間で、そこから逃げてしまったのかもしれない。「キャンディード」における酷い目に遭わされた登場人物たちは、その後逞しく、生き延びる術を探し、‘生’にしがみついていきます。生き物として正しい方向かもしれないけれど、私ならきっと逃げる。例えば自ら死を選ぶとか。今生の私が厭世的なのはこの辺からきているのかもしれない、などという想像にまでも及びました。
‘神’についても考えました。「キャンディード」の世界であからさまに見せ付けられる権力の実態。信仰は誰のものだろう。自分が大切にしている‘神’と自分自身との間に存在するものがあまりにも‘神’から遠いという矛盾。私は無宗教なのでこの辺りの心境はただ想像するだけなのですが、実際信仰を持つ人だったらどう思うだろう、と。
生きていく上で哲学というのは、物事を考える参考になるのだろうな、とぼんやりと思います。ぼんやり、というのは、哲学に全く詳しくないからです。でも興味はあるのです。知識が無くともわかることは、「楽天主義」やら「悲観主義」やら、考え方はそれを語る人の数だけ存在し、そしてそのどこかに自分を無理にはめ込む必要もない、ということです。キャンディードが旅の果てに選択したように、自分の畑は自分で耕せるよう、参考としての知識は広めるが、最後に選ぶ言葉や進む道は、自分の口と足であれ、そう生きられれば良いのだと思います。
悲惨さばかりを挙げてしまいましたが、舞台としての美しさや楽曲の良さもあり、それゆえ物語にスムーズに入り込むことができたということも、付け加えておきます。
シンプルながら美しい舞台セットに、オープニングから溜息が漏れました。入れ子になったいくつかの箱を巧みに使う技も素晴らしかった。王たちのゴンドラのシーンがとても印象的でした。
再演の際、また同じ舞台装置かどうかはわかりませんが、もし再演がある場合、舞台装置に是非注目してほしいと思います。
これが芝居だからこそ観ることができた、ということも付け加えておきます。映画でリアルに映像化されたら、私は観ません(笑)
役者さんたちの素晴らしさは書かずもがな、です。
再演があれば、また観たい作品です。