TPT68「いさかい」

詳細・公演スケジュール
http://www.tpt.co.jp/whatson/068_isakai/index.html
TPT HP
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2008/10/12(日)14:00開演 於:ベニサン・ピット

ベニサン・ピットが無くなる。
そのことを知って慌ててTPTのHPを見ました。
大好きな毬谷友子さんが出演される「いさかい」。ためらうことなくオンラインでチケットを買いました。
今回、この芝居を観ることができて本当に良かった。
「いさかい」はまだスタートしたばかりです。チケット状況はわかりませんが、迷っている方、少しでも興味を持っている方、是非観て下さい。
‘観客’などと甘やかされた立場でいられない、自分も劇空間に巻き込まれてしまうベニサンでの体験を是非。
感想文で引用させて頂くのはパンフレットの中の脚本からです。
パンフレットに脚本が丸々入っているなんて、ありがたい!

今回の席は上手端の最前列。何も無い四角い舞台を右手前の角から左奥の角を対角線で見る形となった面白いアングル。
開演と同時に客席を含めた芝居の空間がばたばたと動き出す。
ベニサンの面白い構造を上手く使った演出の中を役者が客を掠めながら動き回る。

程なく、ある実験が始まる。客席の人間もその実験の傍観者である。
「世界で最初の心変わりと浮気をしたのは」オトコという性のものであるのか、オンナという性のものであるのか。
赤ん坊の時から外部と遮断された世界で決まったお世話係としか暮らさない子供を4人(オトコ2、オンナ2)用意する。そして成長した彼らを外の世界に出し、互いに出会わせる。そこで「世界で最初に芽生えた恋愛がまた再び」生まれる状況を作る。あとは観察していれば、オトコとオンナ、どちらが先に不実な行為に出るのかがわかるであろう、という実験。
無垢な二組の男女。無垢に自己を愛し、無垢に他者を求め、無垢に相手を裏切り、無垢に相容れない二つのものを同時に欲する。

不実を先に生むのはオンナです。オンナ同士の出会いも醜い。反対にオトコ同士の出会いは無邪気です。不実を放たれたオコトが選ぶ道も同情を引くものです。
「あなたが属するオンナという性は、絶えず偽善的」。
不実は、実はオトコもオンナも同じように起こしうるということ。
表面的には慎み深く振舞うことについてはオトコよりオンナの方が長けている、ということなのかもしれません。

作者はマリヴォーという18世紀の作家だそうです。
そんなに昔の戯曲だという感覚がありません。
骨格が普遍的なテーマであるから、どんな時代にでも上演できる作品なのかもしれません。

オトコとオンナは永遠に互いを分かり合えることはない。しかし確かに惹かれ合い、結びつく。そして傷つけ合い、分かれる。
傷を失くす為には、互いに距離を置くこと、エゴを捨てること。
この「距離」と「エゴ」を無視して流れた先の悲劇。
‘社会’においての恋愛と結婚は、理性の元に行われ、悲劇を生まないように保たれようとしているのが普通です。
しかし完全なる「エゴ」の元に恋愛をするとしたら。社会という目から完全に断絶された世界で誰かを求めるとしたら。
私もエグレのような振る舞いに酔うのかもしれない。
ベニサンの濃い密室空間は観る者の感覚も麻痺させます。自分も純粋培養された彼らのような気分で自らを自由に解き放ってしまいそうになります。
つまりは自分の中の「エゴ」をも認めてしまうという気持ちの果て。
すごい、体感だったな。

この芝居はベニサンでなくても出来るかもしれない。
でも、ベニサンだからこそ生まれる特別な感覚がある。

あの空間の中では、役者も客も、まったくの裸でした。
裸の心に、ストレートに、淀みなく流れてきた物語。
この‘実験’を見届けて日常に出た後も、しばらく心は劇空間に浮遊していました。

やはり、ベニサンが無くなるのは、寂しいです。

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