2010/7/3(土)14:00開演 於:東京芸術劇場 中ホール
野田地図、14年ぶりの観劇。←調べてみてびっくりした
遊眠社解散後、第1回公演と第3回公演を観たのですが、まだ遊眠社を引き摺っていた為か、TVで見るような有名人を出演させる公演に違和感があったし、カンパニーとしてひとつになっている感を感じることができず、観に行くことを止めてしまった野田地図。
思えばそれは野田さんの次を創り上げる新しい場であっただろうから、見続けていれば‘野田地図’というカンパニーの進化を眺めることができたのになあ、という気持ちにさせてくれる本作でありました。
まだ公演は続きますのでなるべく肝心なネタばれは避けて感想を書きますが、既に観に行く予定のある方はスルーして、無垢な状態で観て、受け止めてきて下さい。
チケットは毎日当日券を出すそうです。あるいはおけぴにて譲渡の掲示がありますのでこちらも利用されるといいかと思います。「キャラクター」というキーワードで検索すると結構出てきます。
感想文の中で一部パンフレットより抜粋・引用をさせて頂きます。
実際にあった事件。
何故このような事件が起こってしまったのか、
何故このような事件に手を染めるまでに至ったのか、
野田さんの結論としてある漢字一文字がそこに呈示される。
私はその瞬間、自分にも持ちうる危うさに気づかされ、
現代の人々が持つ危うさにも気づかされ、
この病巣の根の深さとその広がりを止めることができないかもしれないこの世の中に恐ろしさを感じた。
果たして自分の脳は大丈夫だろうか。
この事件が繰り返されない為には、呈示されたその原因に手を差し伸べて止めるには、どうしたら良いのだろうか。
「ザ・キャラクター」において、野田さんは明確に、観客に深刻な問題を差し出しています。
この事件をこの板の上に乗せてしまうのか・・・正直戸惑いがあります。しかし風化させず、忘れさせず、問い続けるという、ある種演劇の役割を、今回は見せてもらった気もします。
稽古の初日、野田さんのお話の中で、「この戯曲は世間から離れ、評価も評判も気にせず書き上げたもの」「こんな救いのない物語を書いて良かったのか自問し続けました」とおっしゃったそうです。
これは大変な覚悟だと思います。その覚悟にすべてのキャストが奮い立ち、ひとつになって魂を込めた、素晴らしい作品、そしてカンパニーでした。
私たちに考えさせる時間を作る物語は、ある1軒の書道教室での出来事と、そこに交錯するもうひとつの世界、ギリシア神話の神々のエピソードによって語られます。
神話によって物語が柔らかさを纏い、解りやすい比喩ともなっています。
(もっとも、私自身はギリシア神話に詳しくないので、帰ってきてから調べて、ああそういうことか、なんていう有様でしたが。ネットで調べたなんて言ったら野田さんに軽蔑されちゃいますね 笑)
そして野田作品の食べやすさのもと。冴えた言葉遊びがどんどん流れていくセリフ。久しぶりに聞いて、すっごく嬉しくなりました。そして今回初めてかな、漢字を分解しながらのセリフに興味津々。そういえば野田さんがスタジオパークに出演した時に漢字を分解してその中にある意味を考えるのが好きなんです、って言っていたのを思い出して、ああ、これか!こういうことか!って思いました。
この漢字の分解、そして結合が、物語の結末にひとつ、ぽん、と呈示されるのです。
物語の中心にいる「マドロミ」を演じた宮沢りえさん。初めて舞台で拝見しました。彼女が登場しても、しばらく彼女だということがわかりませんでした。席が遠かったこともあるのですが、その声が、私が知っている宮沢りえの声ではない。正直侮っていました。彼女は舞台俳優でした。力強い発声と演技に感動しました。
深刻な話に安堵と畏怖の両方を与えている存在が「家元」の古田さんです。怪優だなあ。でも場数を踏んで、中身も濃くて、こういう俳優さんがたくさんいなければ演劇は面白くない。
個人的に、この人に演劇をやらせたいと密かに思っていた「会計」の藤井隆さん。この人が舞台に立つ姿を見ることができて嬉しかったです。野田作品にはとても合っていると思います。冷徹さも演じることができる人です。
「ダプネー」の美波さんは美しい。美しい人が変身薬を飲まされてもがき苦しむ様は迫力があり、リアリティがあります。美しさは残酷さをより一層引き立たせる効果があると思います。
最近TV・CMでよくお見かけする田中哲司さんはどっしりと舞台に立ち、安定した存在感を湛えています。良い役者さんなんだな、という認識ができました。
すべての役者さんについて語っているときりがないので。
池内さんもチョウソンハさんも銀粉蝶さんも橋爪さんも野田さんも、そしてアンサンブルのみなさんも、すべてが客席からは一体となって見えていましたよ。
全員の想いが届いた、良い舞台でした。
最近、自分が見て良いと感じたものをすぐそのまま信じるという風潮がありはしないか、という野田さんの問いかけをどこかで読みました。感じると信じるの間に「考える」をしていないのではないか、と。私はこれには、はっ!としました。思い当たるフシがあったからです。
丁度「キャンディード」を先に観て、同じような問題を問いかけられていたところでしたので、「ザ・キャラクター」では更にその課題を鼻先まで突きつけられた思いでした。
いい歳をして、今やっと「考える」を真剣にやっています。勿論、今までだって、ちゃんと考えることはやってきた。でもそんな自分に更なる問いかけ「与えられたことを考え、自分にとって正しい取捨選択ができているか」―そんな問いかけをしてみています。
人はどんなに考えても、過ちを起こす生物であると思っています。
しかし、「繰り返し考える」ことによって、その過ちが少しでも軽減するといい、そんな想いが観劇によって明確に頭をもたげ、劇場の客席に座る意義と喜びを感じさせてもらえることとなりました。
迷っていたけれど、観てよかった。
ここ数年で最も熱い想いを呼び覚ましてくれた芝居でした。
やっぱり野田さん、好き。
そうそう!読み応えのあるパンフレットに椎名林檎さんと野田さんの対談が載っているのですよ。で、正直今日本発信のミュージカルで面白いものが少ないから、椎名「野田さんが書いてくれれば私が曲の部分を書かせていただきたい」野田「やっちゃいますか」って、うわ~!このやり取りだけで既に鳥肌。。
この世ともあの世ともつかない空間を創ることに優れた二人の共通点を見出し、絶対面白いものが出来る!とたったこの会話だけで脳内で勝手に盛り上がってしまいました。是非!是非っ!
このお芝居を観る機会があれば、最後に呈示される漢字ひと文字について考えを巡らせてみて下さい。パンフレットの中の、古田さんのインタビュー記事の中にも答えはあります。
久しぶりに野田作品を浴びたので気合が入っちゃった。
お読み頂き、ありがとうございました。